2007年5月20日日曜日

Sergio Pitol

■メキシコの作家セルヒオ・ピトルは、スペイン語圏の最も重要な文学賞であるセルバンテス賞を受賞した。下馬評ではペルーのブライス・エチェニケやウルグアイのマリオ・ベネデッティらの名前もあがっていたが、けっきょく72歳のピトルに決まった。授賞式はスペイン国王臨席のもとにセルバンテスの命日に当たる4月23日におこなわれる。

ピトルは長年、外交官として活躍するかたわら小説や評論を書いてきた。北京、ワルシャワ、モスクワなどに赴任し、大使としてチェコのプラハでも数年暮らしたことがある。作品ではそうした異国でのエピソードや、幼くして両親を失い、祖母の家に引きこもって暮らした日々のことが想起される。

「私の作品では、思い出や評論や小説など、いろんなジャンルが混ざり合うんです」とあるインタビューで述べている。「自分の書く評論はいささか退屈で、暗くなりがちなので、あるときふと、小さな物語を折り込んだり、夢の切れ端を忍ばせたり、身近な人物を登場させたりしてみたんだ」

このスタイルが功を奏し、受賞の理由にそうした「多様なジャンルの巧みな融合」を果たしたことがあげられている。ポストモダンの系譜に連なるような斬新で「開かれた」作品を書いたというわけである。
さらに、赴任した先々の作家たち、たとえばゴンブローヴィッチ、アンジェイェフスキといった東欧の作家たちをつぎつぎにスペイン語圏に翻訳紹介したその功績が称えられた。チェーホフ、コンラッドの作品まで入れると、百冊近い作品の翻訳がある。

外交官として仕事ぶりはどうだったのかと気になるところだが、彼の人気と評価の高まりはいずれにせよ、退官後の『フーガの芸術』(1996)からだろう。小説とも評論とも随筆ともつかぬそのシームレスなスタイルは、意外にも日本のわれわれには親しみやすい。そういえば、仏教的なものが自分にしっくりくるともピトルは述べていた。
「朝日新聞」2006-2-14