2008年11月24日月曜日

ラス・カサス

■ラス・カサスは16世紀に活躍したスペインのカトリック司祭である。ラテンアメリカの先住民(インディオ)に対する残虐非道なふるまいを激しく非難し、スペイン支配の不当性を訴えつづけた。中南米ではインディオの擁護者として称えられてきた。

この本では著者はそうしたラス・カサスの足跡を追う。生まれ故郷のセビージャや十七歳の時に大西洋を渡って最初に訪れたカリブ海のサント・ドミンゴ、従軍司祭として征服行に加わったキューバ、あるいは平和的な植民改宗事業を企てたクマナ(ベネズエラ)、ひと月だけ訪れたパナマ、たどり着けなかったペルー、司教として赴任したチアパス(メキシコ)などなどだ。

それらの現場に、当時であれ五百年後の今であれ実際に立つことで初めてわかることがいくつもあるようだ。じつはラス・カサスの研究は、日本でも大いに進められてきた。評伝はあるし、代表作の『インディアスの破壊についての簡潔な報告』や『インディアス史』なども日本語で読むことができる。だが、「その足跡をくまなく脚で歩いて検証した形跡はあまり見受けられない」のは確かだ。「ラス・カサスの晩年の言動に対する細心の検証作業はあっても、臨終のベッドが置かれた修道院へ赴くという「手間」は省かれているのではないか…」という著者の指摘はうなずける。

とはいえ、この本でとりわけ驚かされるのは、そこかしこで発揮される著者の旺盛は批評精神だろう。訪れる先々で過去や現在、歴史や政治、さまざまな社会問題や事件が縦横に語られ、独自の批評が加えられる。キューバではチェ・ゲバラとラス・カサスが対比され、パナマではガルシア・マルケスや松尾芭蕉、あるいは海賊ドレークや征服者ピサロが想起される。過剰なまでに繁茂する思考は、ラス・カサスの言説と同様に挑発的である。