2010年11月28日日曜日

■Juan Rulfo

メキシコの作家フアン・ルルフォの写真展が、メキシコ市の鉄道ミュージアムで開催されている。一九五〇年代の半ばに撮影された62枚の写真が展示されており、ターミナル駅がまだ鄙びた都市の一画だったころの様子を写しだしている。煤けた家並みや、黒い煙をあげながら視界の奥に現れた蒸気機関車、あるいは緩やかにカーブを描きながらどこかへ消えていく無数の線路、どの一枚も美しく、そしてどこかもの悲しげだ。 写真家としてのルルフォに注目が集まるようになったのはここ十年ほどのことである。むろん彼の名声は、生前に発表した2つの文学作品、短編集『燃える平原』と長編『ペドロ・パラモ』によるものだが、ここにきてメキシコ国内で写真集が刊行され、今回のような写真展もあいついで開催されている。昨年はメキシコ南部の古い都市オアハカで写真展が催され、ルルフォが一九五〇年代の後半にここを訪れた折りの70枚の写真が展示された。先住民の暮らしやさまざまな建築物に注がれる独特な視線や確かな構図が評判を呼んだ。 そうした写真家としてのルルフォの研究は、まだはじまったばかりだが、1930年代の終わりに最初のカメラを手にし、3000枚を超える「作品」を残していることがわかっている。そしてどうやら短編を書き出したのとほぼ同じ時期に、何枚かの写真を雑誌に投稿していたようだ。 そういえば邦訳『ペドロ・パラモ』(岩波文庫)の表紙に使われている写真も、ルルフォ自身の手になるものだ。馬にまたがった男たちが、草の斜面に不意に現れた瞬間を捉えている。高く伸びた穂が揺れ、顔の見えない男たちはささ体を前傾してどこかへ急いでいる風だ。画面の半分以上を占める空も、重なりあう雲におおわれ、先行きの不穏な事態を予想させる。緊張感と不安をはらんだ画面は、やはりどこかルルフォの小説世界と響き合う…。